講演要旨  

小さな分子からの創薬:Fragment-Based Drug Discovery

大日本住友製薬株式会社 化学研究所 上級研究員
田中 大輔

 Fragment-Based Drug Discovery(FBDD)は、従来のHigh Throughput Screening(HTS)では通常用いられることのないシンプルで小さな化合物(フラグメント)を比較的少数スクリーニングし、創薬リードとして高いクオリティーをもつ化合物へと展開する新しい創薬方法論である。HTSで有望なリード化合物を見出すことができなかったケースであっても、FBDDが有効な場合が多く報告されている。そのため、FBDDは創薬研究の現場で、HTSと相補的なリード探索手法としての地位を築きつつある。本講演では、以下に示したFBDDの基本概念にフォーカスをあてながら分かりやすく解説する。後続の演題へのイントロダクションとしての役割を果たすことができれば幸いである。

  •  なぜ小さな分子(フラグメント)が魅力的か?
    フラグメントは標的タンパクの結合部位に存在する空間的に小さなポケットを精密に探索することができる。また、分子の大きさとスクリーニンングにおけるヒット率には負の相関があることが知られており、小さな分子のヒット率は相対的に高い。
  •  生物物理学的手法によるスクリーニング
    一般的にフラグメントと標的タンパクとの結合親和性は非常に弱く、通常の薬理学的スクリーニング法では正確に検出できない。そのため、生物物理学的な観測手段が活用され、それらを複数効果的に組み合わせることが研究のスピードと確度を向上させる。
  •  ヒットフラグメント厳選の指標:リガンド効率(Ligand Efficiency)
    見かけの活性強度(結合親和性)よりも、分子の大きさあたりの活性強度を見積もったリガンド効率が考察されることが多い。これは、一見弱い活性であっても、効率よく相互作用している小さな分子を見出すというFBDDの着眼点そのものと言えるだろう。これにより、分子量の増大を伴う構造最適化行程を自由度高く展開することができる。
  •  弱い活性のヒットフラグメントからリード化合物への展開
    標的タンパクの隣接するポケットに結合する複数のフラグメントが選択される場合は、これらを適切なリンカーを介して結合させる(fragment-linking)、あるいは部分的に重ね合わせ融合させる(fragment-merging)手法がとられる。理想的なケースでは結合親和性が103~105ほど強くなると言われており、FBDDの最もセンセーショナルな一面である。また、単独のフラグメントであっても標的タンパクと効率よく相互作用していることから、リード化合物分子のコア構造として好ましく、構造情報を基にした合成展開によって高いクオリティーをもった化合物に辿り着きやすい(fragment evolution)。


X線によるフラグメントベーズド・スクリーニング

ファルマ・アクセス株式会社 取締役
山野 昭人

 フラグメントベーズド・スクリーニングを実行するための主な分析手法としては、X線回折、NMR、SPR、熱分析(ITC、Nanocalorimetry)などが挙げられます。中でもX線回折法によるFBSの有用性は、インデュースト・フィットや複数のフラグメントの結合など、予想外の結果を視覚的に捕らえることができる点にあると思われます。   FBSでは100回以上のデータ測定と構造解析が要求されますが、SPring-8におけるメールインサービスの開始や、近年の要素技術の発達による実験室系の装置の進歩もにより、データ測定から構造解析に必要な時間は飛躍的に短縮されており、X線によるFBSの実用性が増しています。
FBSの実行にまず必要なのは化合物ライブラリーです。ファルマアクセスではActiveSightの化合物ライブラリーを採用しています。384化合物からなるこのライブラリーは、Ro3などの条件に基づいて構築されています。スクリーニングの第1サイクルでは4化合物のカクテルを用いますが、構造解析の際の電子密度解釈のあいまいさを排除するために、できるだけ形状の異なる化合物が組合わされています。
 X線回折法によるFBSでは、100回を超えるデータ測定と解析を実用に耐える時間内で完了しなければなりません。放射光へのアクセスが飛躍的に向上し、実験室系の装置が進歩した現在では、データ測定そのもののスピードに加え、測定装置を有効に活用するための結晶の自動評価・測定システムの重要性が増してきています。また、迅速化のためには、データ収集の速度に見合った構造解析能力も必要となります。ファルマアクセスでは、CCP4のモジュールを有効に利用して自動解析を行うMIFit+を採用しています。FBSではヒット率が数パーセントであり、ほとんどの場合がいわゆる”空振り”であるという観点からも解析の自動化は必須です。
 X線によるFBSの実行の成否を決めるのは、以下の条件であると思われます。このうち特に重要なのは結晶性で、データ測定に時間がかかるような結晶では、実行時間が大幅に伸びてしまい実用にはならないと考えられます。

  • 結晶性がよい。
  • 100個程度の結晶が比較的容易に作成できる。
  • 活性部位(ターゲット部位)が空いている。
  • DMSOによるソーキングに耐えられる。
  • 高輝度X線源での測定に耐えられる。
加えて講演では、HSP90を用いてのFBSの実行の実際について説明させていただきます。



NMRによる蛋白質−リガンド相互作用解析と創薬への応用

産業技術総合研究所・バイオメディナル情報研究センター主任研究員
高橋 栄夫

 2002年のノーベル化学賞受賞者であるスイスのWuthrich博士が、NMRから得られた原子レベルの構造情報を統合することで、水溶液中におけるタンパク質の立体構造を決定することが可能であることを1980年台に示して以降、構造ゲノム(プロテオミクス)プロジェクトの進展とも相まって、NMR法は生体分子の立体構造決定手法として捉えられることも多い。しかしながら、NMRにより得られる数多くの構造情報の中でも、立体構造決定に生かされていないものもあるし、また、目的によっては、必ずしも立体構造決定を行わず、NMRから得られた情報をそのまま利用することで、研究を迅速に展開できる場合がある。
 このようなNMR法のversatileな特性から、近年、創薬プロセスの初期の段階である開発候補化合物探索過程においてNMR法が活用されてきている。創薬プロセスにおけるNMR活用のポイントは、標的分子−リガンド分子間相互作用の迅速な検出およびそのキャラクタリゼーションであるといえる。本発表では、まず、現在数多く考案されているNMRによるリガンドスクリーニング技術の概要・原理・特徴などについて概説する。NMRスクリーニングでは、近年脚光を浴びている創薬戦略であるfragment-based drug discovery (FBDD)における、弱い相互作用(解離定数mM〜μM)の候補化合物の検出が可能であり、初期段階でのヒット化合物の多様性を確保することが可能になるとともに、化合物と標的分子の結合そのものによるNMRパラメータ変化を見ているため、他のアッセイ系に見られる偽陽性(false positive)が現れにくい特長がある。
 上述の優れた特性を有するNMRスクリーニング技術であるが、単なる化合物−標的分子間の結合の有無の判別のみでは、原子レベルの構造情報が取得できるNMR法のポテンシャルを発揮しているとは言い難いのも事実である。そういった観点から、標的分子やリガンド分子の原子レベルの相互作用情報をNMRにより効率的に取得し、それを活用することで、初期ヒット化合物の構造最適化へと展開するNMRならではの試みもなされてきている。これらの特徴的なNMR測定技術、特にFBDDに関わるNMR手法についても議論したい。


高速SPR測定装置を用いたFBDD


富士フイルム(株)ライフサイエンス事業部事業開発室アプリケーション担当
来馬 浩二

 近年、新薬開発のための費用は世界的にも増大の一歩をたどっており、従来のHTSより開発効率の高い手法が望まれている。現在、この新薬の開発効率を向上させる可能性のある手法として、
FBDD(Fragment Based Drug Discovery)が注目されている。

 Fragmentのライブラリーは、理論的な計算により、2万化合物程度になると言われている1が、これまで検討されてきたNMR、MS、X線などの方法では、いずれもスループットが低い、という共通の問題点があった。このことから、Fragmentライブラリーを非標識で一次スクリーニングすることができるセンシング手法が望まれていた。

 そこで我々は、表面プラズモン共鳴(SPR)技術を基盤とした、世界最速(3,840/日)でかつ低分子のFragment化合物の測定が可能な「非標識医薬品化合物スクリーニングシステムAP-3000」を開発した。

ここでは、FBDDを行うために必要となるSPR技術や、バインディングアッセイにおける課題を概説するとともに、実際にFragment化合物をAP-3000で測定した結果について紹介する。

1. Fragment-based Lead Discovery Conference 2008 : Poster no.2-02

 


NMR/SPRによる化合物スクリーニングの実際


中外製薬株式会社 研究本部研究員
三浦 隆昭


Fragment based approachにおいて成功確率を上げるための鍵になるのは、言うまでもなく、合成展開のstarting pointとして良いフラグメントを得ることである。しかしながら、フラグメントは、通常、解離定数で数十?M-数mM程度の極めて弱い結合親和性しか持たないため、HTSとは異なるコンセプトでスクリーニングを実施することが必要になる。すなわち、フラグメント探索のためのスクリーニングでは、第一に感度高く結合フラグメントを検出できること、またさらに重要な点として、得られたフラグメントの結合が特異的な結合であるかどうかを調べることが必要である。

核磁気共鳴法(NMR)は、解離定数が数百?M-数十mM程度の極めて弱い相互作用についても検出可能であることから、Fragment-based approachのスクリーニングに当初最もよく用いられた方法である。しかしながら、NMRの利用には、Abbottによる特許の存在や、HT化には多額の投資が必要になること、スクリーニングに必要なタンパク質量が多いこと、さらにはフラグメントの構造展開に必要な構造情報を十分に得られないこと、などが、問題になる。一方、近年、低分子化合物−タンパク質の相互作用解析ツールとして表面プラズモン共鳴法(SPR)の利用が一般的になってきた。Biacore A100などに代表されるSPR原理を用いたハイスループット型装置も販売されており、数千化合物程度であれば、数日でスクリーニングを実施することが可能になってきている。我々は現在SPRでフラグメントスクリーニングを実施し、結合特異性確認のためのvalidationとしてNMRを利用している。今回は、NMR/SPRを用いて化合物スクリーニングを実施する際の注意点・問題点について議論したい。


FBLDを支援するインシリコ手法


株式会社ファルマデザイン 研究開発本部 創薬研究部 主任研究員
高橋 理


 FBLD(Fragment Based Lead Discovery)は、元来NMRやX線結晶解析などの弱い活性を検出できるスクリーニング手法に端を発している。有望な骨格(Scaffold)がスクリーニングできたあとインシリコ手法の助けを借りて活性を上昇させ、最終的にリード化合物最適化を果たすという点において計算技術者にとって大変興味深い、チャレンジングな領域である。特に、以下の2点でインシリコ手法がFBLDを支援できると考えられる。(1)スクリーニングで得られたフラグメントや最適化の過程で得られる化合物の優先順位付けを行うための、LE(ligand efficiency)などの指標について現在議論が深められつつあるが、適切な指標を定義するためには、リガンドとタンパク質との相互作用の本質についての理解が必要である。(2)フラグメントからリードへの最適化の過程では、X線結晶解析やNMRによって得られる構造情報を活かして効率良く分子設計を実施することが重要であり、SBDD(Structure Based Drug Design)やCADD(Computer Aided Drug Design)が真価を問われる場面である。以上の2点に着目して、FBLDにおいて計算が果たしうる役割と、その方法論の現状について、他のグループから最近発表された研究と、弊社での取り組みを合わせてご紹介させていただく予定である。





Strategies for Fragment Based Drug Discovery programs at Evotec



Rainer Netzer, Ph.D. Senior Vice President, Business Development


Fragment based drug discovery (FBDD) is a novel powerful drug discovery paradigm in which weakly but efficiently binding fragments (typical molecular weight 150 to 300 dalton) are screened for, followed by structure based drug design to the lead compound status. FBDD has particular benefits in generating novel chemical intellectual property for well exemplified targets and rescuing targets that have failed in traditional HTS.

Evotec is a leader in the discovery and development of novel small molecule drugs. The Company has established a powerful platform that is applicable to targets across all therapeutic areas and has specific expertise in the area of Central Nervous System (CNS) related diseases where it is building a pre-clinical and clinical pipeline of drug candidates for partnering. Through research collaborations and proprietary projects Evotec is providing the highest quality research results to its partners in the pharmaceutical and biotechnology industries.

Evotec have assembled a FBDD platform centred on two complementary and highly sensitive detection techniques, fluorescence correlation spectroscopy (FCS) and nuclear magnetic resonance (NMR). The technologies are used in conjunction with a newly designed fragment collection of 20,000 diverse fragments and an additional set of 20,000 fragments for NMR investigations.

In addition, Evotec has already validated this EVOlutionTM technology against a number of biologically relevant targets including kinases, proteases and protein-protein interactions for therapeutic applications including the CNS, oncology, inflammation, metabolic disease and cardiovascular diseases. In these therapeutic areas Evotec is building a pipeline of programmes for early partnering with Pharmaceutical and Biotechnology companies. Evotec will seek to partner these programmes once they have reached defined asset criteria.

Details about the screening processes, the library and the general workflow of fragment screening including X-ray crystallography and medicinal chemistry will be described. To confirm the strategy case studies on interesting pharmaceutical target classes will be shown.



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